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シアタードラマシティで『ETERNAL CHIKAMATSU』を観て 見ごたえたっぷりでした

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3月5日、シアター・ドラマシティで『 -近松門左衛門『心中天網島』より-ETERNAL CHIKAMATSU 』を観てきました。谷賢一の脚本をデヴィッド・ルヴォーが演出、深津絵里&中村七之助のW主演という舞台。デヴィッド・ルヴォーといえば2014年に観た難解な「昔の日々」の悪夢を思い出しますが(笑)、今回はそうならないことを期待しつつ出かけました。
↓デヴィッド・ルヴォーです


道路は空いていて、いつもより早く駐車場につき、余裕で昼食(家族亭です)。劇場入り口に戻ると、すでにこれまで見たことのない長蛇の列が出来ていました。ほどなくして開場となって、スタッフに案内されて車椅子用通路から客席へ。女性客が多かったのは中村七之助ファンの方々でしょうか。

『心中天網島』はご存知の通り近松門左衛門の代表作ですが、私はこれまで舞台を観たことがありません。というわけで、心中物=悲劇ということで、さぞ重苦しく深刻な話だろうな程度の観劇でしたが、結論としては脚本も演出も極めて明快でわかりやすく(笑)、すんなりと胸に響きました。

上演時間は途中20分の休憩をはさんで約3時間。
でも出演者の力の入った演技と、絶妙の生演奏で全く長さを感じない緊張感のある舞台でした。結末もいい意味で安易な予想が裏切られて、後味のいいものでした。満足。(笑)
そして観終われば、鳴りやまない拍手のカーテンコール。前回「書く女」で立ちそびれて後悔した私たちも、今回気合を入れていち早くスタンディング(笑)。でも本当にいい芝居でしたよ。

という前置きはこれくらいで、塩分控えめ・超薄味な感想です。でも少々ネタバレありなので、未見の方はご注意です。
画像は当日買ったプログラムから。いつもの通り敬称略です。
↓プログラムです


客席に半鐘の音が響いて照明が消え、幕が開いて今流行のプロジェクションマッピングの映像が映されて、まるで映画のような幕開きでした。画面はニューヨークの映像からリーマン・ショックのニュースとなり、大阪・道頓堀のネオン街になって、舞台の設定が大阪とわかります。


しかし最近のプロジェクタはきれいですな。私などがパワポのプレゼンで使っていた時とは大違いです。

そして深津絵里のハルが登場。

彼女は借金のために売春婦となり、その完済のためにこれからどれだけの間、どれだけの男を相手にしなければならないかを細かく計算して嘆きます。まずこの場面がいきなりのインパクト。けっこう宝塚の石田昌也センセイ顔負け(笑)の際どいセリフが深津絵里の口からポンポンと出てくるのがびっくりでした。

↓プログラムの練習風景から

ところで私が深津絵里に興味を持ったのは、wowowで三谷幸喜の『ベッジ・パードン』を観てから。
それまで『悪人』や『ステキな金縛り』で映画での演技は十分承知していましたが、舞台でも凡俗のタレントとは大違いの完成度の高い演技だったので、機会があれば観たいと思っていました。期待にたがわず今回も大した演技で、ベテラン・中嶋しゅうのヤリ手ババアとの掛け合いも面白かったです。
ただちょっと彼女は痩せすぎな感じで、ヨメさんは「『十二夜』の中嶋朋子みたい」と言っていました。私も同感で、もうちよっとふっくらしてほしいですね。まあ今回は生活に疲れた売春婦役なのであまり健康的なのもいかがなものか(殴)。

ハルは常連客のジロウと商売抜きの恋をしています。このジロウ役の中島歩(花子とアンの宮本龍一ですね)は、ビジュアル的には生活力ゼロのイケメン役で(笑)ピッタリですが、セリフがちょっと聞き取りにくいのが残念。

そう思いながら観ていたら、ジロウの兄・イサオ役の音尾琢真が登場。手切金を突き付けて妻子持ちのジロウとの離縁を迫ります。この人のセリフは良く通り、ホッとしました。演技も余裕綽々、観ていて安心感があります。

そしてハルは散々イサオに罵倒され、それでも借金返済の足しになればと差し出された金を受け取ります。
しかし、やはり思いを断ちがたく、半ば自暴自棄になって街を彷徨い歩くうちに、幻の蜆(しじみ)川にたどり着き、そこに架かる橋の上で遊女・小春(中村七之助)と出会うところから、一挙に江戸時代にタイムスリップ、というか、一種のパラレルワールド風の展開ですね。
↓練習風景から


舞台装置は、デヴィッド・ルヴォーの文法どおり、あの世とこの世をつなぐ橋を抽象化した極めてシンプルなもの。でもそれが、幽玄の世界にふさわしく、幻想的で過不足ない効果を上げていました。
また先に書いたように音楽もぜいたくな生バンドで、間断なく流れる絶妙な演奏と効果音の演出がよかったです。

現代ではババア役の中嶋しゅうは、江戸時代では狂言回しのようなジジイになっています。

↓ババア役のほうです

このジジイに案内されたハルは300年の時空を超えて『心中天網島』の物語に入り込み、眼前で展開される物語を傍観し続けます。ハルと私たちが同じ立位置で観る設定が面白かったです。ただそのために深津絵里がほぼ出ずっぱりとなるので大変ですな。
そして舞台上では、歌舞伎の“河庄”や“しぐれの炬燵”の世界が展開されていき、歌舞伎ファンならたまらないところでしょうね。

期待通り、深津絵里の演技は大したものでした。きめ細やかな演技と豊かな感情表現がリアルでした。それに対する小春役の中村七之助も、これぞ歌舞伎の女方といわんばかりの完成された様式美で、美しいなかにも鬼気迫るものがあって、圧倒的な存在感でした。


↓練習風景から


芝居のテーマは男女の「生と死」ですが、同時に「性と死」の世界でもあると思いました。
この不変のテーマを、300年の時代を往来しつつ描き出す、新しい視点の舞台にしてくれた谷賢一とデヴィッド・ルヴォーに感謝。

そしてそんな重いテーマでも、最後は希望を託せるホッとさせる意外な結末で、うれしい誤算。

おかげで温かな余韻に包まれて劇場を後にすることができました。脚本家の登場人物に対する優しいまなざしが感じ取れてよかったです。

もし再演されることがあったら、未見の方はぜひご覧ください。おすすめです。

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