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兵庫芸文センターで 『書く女』を観て -黒木華、大した役者さんでした

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13日に兵庫芸文センターで二兎社公演『書く女』を観てきました。

作・演出は永井愛、主演は黒木華(くろき はると読みます)で、2006年に寺島しのぶ主演で上演された作品の再演です。

話は井上ひさしの『頭痛肩こり樋口一葉』と同じく、一葉の短い生涯がテーマですが、描き方は全く対照的です。

井上ひさしの脚本ではかなり自由奔放に(若村麻由美の幽霊とか(笑))樋口一葉を描いているのに対して、永井愛は一葉の実生活を忠実になぞり、彼女の文学が生まれる過程や彼女に関係する人々を描くとともに、文学作品の内容にも踏み込んだ脚本になっています。

でも恥ずかしながら、私は一葉の作品は全く読んでいない(殴)ので、そのあたりの話がよくわからずもったいなかったです。読んでおられる方はさらに面白かったでしょうね。

一方で二兎社とこまつ座に共通するのは、現代の偏狭なナショナリズムが幅を利かす社会風潮に対する強い危惧ですね。

前回観た「鴎外の怪談」でもそれがよく表れていましたが、今回も、日清・日露戦争に向かう当時の政治の流れを、現在の日本に蔓延している排外主義的な社会意識と重ねて、警鐘を鳴らしています。

ただし、現代の政治状況への危機意識はこの二人だけではなく、最近観た多くの舞台でも共通して感じ取れます。このあたりに現代の舞台人の良心が感じられて心強いかぎりです。

前置きはこのくらいにして感想になりますが、本当にいい舞台でした。
(写真は当日購入したプログラムから)

先に書いたように、永井愛の一葉とその作品に対する深い理解と共感が、脚本にも色濃く投影して話に厚みを加えています。

でも今回の私たちの収穫は何といっても黒木華。


もう私などの予想を覆す完成度の高い役者さんで、感心しました。観るまでは、どうせ最近売りだし中の女優なので、その人気にあやかって登用したのだろうみたいな浅はかな先入観を持っていましたが、そんな邪推は完全に吹き飛ばされました。(笑)

幕が上がって、材木を階段状に敷き詰めたような舞台を、和傘を斜めに差した人物が交錯する演出がまず目を引きました。そのあと主演の黒木華が登場。すぐに、彼女の台詞にビックリ&感心しました。
結構細身なのに、よく通る声が舞台に響きます。演技も自然で、いいたたずまいです。
これがかなり衝撃だったので(殴)、幕間に公演リーフレットを読んだら、若いのに大変な経歴の持ち主で愕然としました。何に愕然としたかというと、私の無知さ加減。(笑)

そして、テレビで見るよりはるかに美人!(殴)なのにもビックリ。表情豊かで情感を込めた一葉で、いろんな所作も完ぺき、終始見惚れていました。NHKの連続テレビ小説にも出演していて脇役ながら存在感は大きくて印象に残っていましたが、ここまでとは思ってもいませんでした。大竹しのぶの再来みたいな感じです。

しかし、樋口一葉は本当に短命でしたね。
わずか24歳と6か月!でこの世を去っています。でもその作家生活は壮絶&濃密で、20歳未満で処女作「闇桜」を発表してから肺結核で亡くなるまでの間に22もの作品を書いています。
特に1894年12月の「大つごもり」発表から「裏紫」にかけての期間は「奇跡の14ヶ月」と言われていますが、まさに「生き急ぐ」という言葉がぴったりですね。それと、黒木華の若々しい容姿が一葉にぴったりでした。

一葉の母・樋口たきは木野 花。この人の舞台はこまつ座の「イーハトーボの劇列車」以来ですが、今回はこまつ座の『頭痛肩こり樋口一葉』の三田和代と似た役作りで、いい味を出していました。


もともとしがない百姓身分なのに、夫とともに故郷を出奔後、俄か士族の端くれに列して下級官吏の身分を手に入れてから、なにかというと「ウチは士族なのに」と虚勢を張るたき。そんな母親をよく演じていました。

そういえば『頭痛肩こり‥』でも感じたのですが、今回の『書く女』でも女優陣の頑張りが目立っていましたね。

平岳大の半井桃水も、いかにも桃水はこんな人物だっただろうと思わせる説得力のあるいい演技でしたが、女性陣の迫力には負けている感じでした。でももう親の七光りなど完全に脱して、実力のあるいい役者さんになっていました。


半井桃水については、私の生半可な知識で、若い一葉を誑かした嫌なヤツだぐらいに思っていましたが(笑)、彼が朝日新聞の特派員第一号として釜山にわたり、その経験を活かして朝鮮半島を舞台とした小説を書いていたとか、朝鮮半島の人々に同情を寄せていたとか、その体験から朝鮮半島の併合にも反対していたなど、私の知らない一面が紹介されていたのが新鮮でした。勉強になります。

桃水の妹・幸子役の早瀬英里奈はとにかく絵に描いたようなかわいらしさで目立っていました。彼女が出てくると舞台がパッと明るくなる得な存在でした。美人は得です。(殴)


一葉の妹・くに役は朝倉あき。

この妹も『頭痛肩こり‥』の邦子同様、しっかりものです。苦しい生活の下でも姉の小説家としての力量を信じていて、そのために自分を犠牲にしても家のために尽くすという健気な女性です。朝倉あきは、深谷美歩の邦子同様、一家の雑事を一手に引き受けて健気に働く妹をうまく演じていて、光っていました。

伊藤夏子役の清水葉月は一葉の終生の友として、折に触れて一葉を支える優しい女性です。初めて見る女優さんですがこの人も、一葉を陰に陽に見守り続ける姿が印象的でした。


一葉のライバル・田辺龍子役の長尾純子も初めてお目にかかる俳優さんでしたが、最初は一葉のライバルとして張り合っていたものの、次第に力量の違いを見せつけられ、それでもメゲずにたくましくしたたかに生きる女性をユーモラスに演じていました。意地悪な役かと思っていましたが、そうではなくよかったです。敵役になったら面倒そうな人物でしたから。(笑)


こうした女性陣の活躍ぶりに比べると、脚本上仕方がないですが、男優陣は少々影が薄かった。でも、出番は少ないものの(本当に終わりごろになって出てきます(笑))、古河耕史演じる斉藤緑雨はインパクトがありました。一葉と反目しあいながらも、互いに共通するものを嗅ぎ取っていたような二人の関係が面白かったです。男優陣では一番魅力的な人物でした。


その他の男優では、平田禿木役の橋本淳も以前観た『海の夫人』ですでにおなじみだったので、勝手に親近感をもって観ていました。(笑)
不純な動機で一葉に近づいてきた悪いやつかと思っていたら、そうではなかったので好印象。(殴)

兼崎健太郎の川上眉山もよかったです。でもやはりこの芝居、男子の影が薄いなあ。(笑)

最後になりましたが、音楽は作曲と生演奏担当が林正樹。
曲も演奏も素晴らしく、舞台を劇的に盛り上げていました。


そして、結末となりましたが、もう大感激でした。不覚にもついホロッとな。

よくできた脚本と、それにこたえる芸達者のいい役者ぞろいで、それを最前列センターで観られて、本当に至福のひとときでした。

拍手しながら、ヘタレな私は立つタイミングを見計らっていましたが(殴)、そうしているうちにカーテンコールが二回で終わってしまってガックリ。ヨメさんも同様だったとみえて、「もうこんどは一人でも立つ!」と後悔しきりでした。

もし再演される機会があったら、今度はもう少し一葉の作品の知識も持って、ぜひ観たいと思いました。おすすめです。


そういえば当日のロビーではこまつ座の「頭痛肩こり‥」の再演がアピールされていました。今回は永作博美が一葉とのことですが、あとは前回と同じメンバーなのでまた観てみようかとヨメさんと話していました。唯一前回は小泉今日子が残念だったのですが、今回はどうでしょうか。





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