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兵庫芸術文化センターの「炎立つ」。いい舞台でした。 

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9月15日に兵庫芸文センターで『炎立つ』を観てきました。前回の『日本の面影』観劇以来3か月ぶりです。
12時開演なので早めに出発。劇場地下に駐車してからホールへ上がり、そのまま劇場近くで昼食を済ませました。

再びホールに戻ったら結構な会場待ちの人の列。ホールに並べられた花の写真などを撮ってから、私たちも列に加わりました。
ほとんどが片岡愛之助さんに送られたものですが、三田和代さんや益岡徹さんへのものもありました。




私たちの席はJ列の下手側。傾斜が急になっている席ですが、ヨメさんは頑張ってたどり着きました。でもその分観やすくてよかったです。

で、観劇の感想です。いつものとおり敬称は省略させてもらっています。以下の画像は当日購入したプログラム(舞台衣装バージョンです)からの抜粋です。

舞台は古材のような材木で階段状作られています。役者さんたちは大変そうです。
衣装とかも簡素で、カツラもつけず地毛のまま。でもそれが途中からまったく気にならなくなるほど内容の濃い舞台でした。
演奏は宮野弘紀・浦田恵司・金子飛鳥の3人。効果的な音楽演奏で舞台を盛り上げていました。音楽担当は金子飛鳥です。

時代は約1000年前。「前九年の役」と「後三年の役」が背景になっています。
当時東北を支配していた蝦夷の末裔・安倍氏と清原氏が反乱を起こし、それを源義家が平定し、その後藤原清衡が平泉を中心に100年の間平和の楽土を築くまでの話です。
ちなみに『役』とは、蒙古襲来の文永の役とか弘安の役のように異民族との争いに使う言葉とのことで、安倍氏や清原氏との戦いは朝廷にとっては異民族との戦いだったのですね。

今回の舞台での演出家の視点はあくまで大和民族ではなく蝦夷の立場に立っていて、その上で朝廷との対立とキヨヒラ(清衡)とイエヒラ(家衝)の血みどろの抗争を描いています。

冒頭の舞台では、長い戦のあと荒れ果てた東北の大地に一本の杭を打ち込むキヨヒラ(清衡)の姿が。
これはプログラムで演出担当の栗山民也が記しているように、
「広場の真ん中に、花で飾った一本の杭を立てよう。そして人を集めよ、そこに祭りが始まる。」(J・J・ルソー)という言葉からきています。まず第一に東北復興への強い願いが込められていると思いますが、同時に不毛な戦いではなく平和な楽土を築きあげたいという演出家の強いメッセージが感じられました。観るものによってさまざまな解釈ができる象徴的な場面です。
余談ですが、私はこの広場と祭りというフレーズで、『イーハトーボの劇列車』の中の台詞のひとつを思い出しました。

さて舞台はこの場面のあと、一挙に戦乱の時代へと遡っていきます。

芝居が始まってすぐ、コロスの使い方の巧みさが眼につきました。
まるでギリシャ悲劇に登場する巫女のような舞台衣装です。
コロスのメンバーは4人で、一倉千夏・上田亜希子・坂本法子・山崎薫。いずれも歌い、語り、戦闘場面では立ち回りさえ演じ、さらに他の登場人物にも扮して大活躍でした。


4人のコロスを率いるのが巫女カサラ。新妻聖子が見事に演じていました。
この人はこまつ座の『それからのブンとフン』ではあっけらかんとした小悪魔役でしたが、圧倒的な歌唱力で凄いインパクトでした。
今回もアラハバキの予言を伝える巫女として半ば魑魅魍魎な存在ですが、歌が絶品な出来。
歌い上げる曲はもちろん、ささやくような抑えた歌でも澄んだ透明感のある歌声で胸に沁みました。本当に大したものです。




「ブンとフン」ではこんな感じ↓


主人公・キヨヒラ(藤原清衡)を演じるのは片岡愛之助です。初めて観る役者さんです。
さすがに歌舞伎役者だけあってよく通る声。役柄は三宅健演ずる弟・清原家衡のような激しい性格ではなく、過酷な運命にひたすら耐える役ですが、人間味のあるキヨヒラを抑揚の効いた演技で描き出していました。
この人は歌舞伎の名門の出ではなく、ゼロからスタートして歌舞伎役者になったとのことですが、懐の深いいい役者さんですね。


敵役の三宅健のイエヒラ(家衡)ですが、なぜか声があの『鉈切り丸』の森田剛に似ているなと思っていたら、どちらもV6のComing Centuryのメンバーとか。
芸風もよく似ています。ただどちらも私には若すぎる声がちよっとひっかかりましたが、森田剛に負けない全力投入の演技で頑張っていました。身体能力高いです。この点も森田剛と共通しています。イエヒラ役自体、鉈切り丸と似た境涯設定の人物ですね。




清衡と家衡が兄弟でも姓が違うのは異父兄弟ゆえ。そしてこの二人が朝廷の定めた新たな国割りのために相争うことになります。それを伝えるのがベテラン益岡徹のヨシイエ(源義家)。ちなみに今回の劇の台本では役名がすべてカタカナ表記。これは劇で訴えたかったことを、できるだけ純化してつたえようとする演出家の意図によるものでしょうね。

益岡徹のヨシイエは、歴史に残る勇将として有名な源義家とは違って、キヨヒラ・イエヒラに対する温かな眼差しが感じられます。とくにキヨヒラには同情的です。二人の母ユウの三田和代とともに、いい演技で舞台に厚みを与えていました。
ヨシイエの益岡徹です↓


そしてユウの三田和代↓




出番は多くなくても、圧倒的な存在感を見せたのがアラハバキの平幹二朗。
アラハバキとは東北・蝦夷の荒ぶる神です。意外なことに平幹二朗は人間でない役を演じるのは初めてとのことですが、登場しただけでその大きさと迫力のある存在感が圧倒的でした。

ちょっとコミカルに怪演しています


あと、キヨヒラの父・ツネキヨ(藤原経清)役の松井工とか↓

キヨヒラの妻キリの宮菜穂子も出番の少ないのが残念ないい演技でした。

ちょっとがっかりだったのが狂言回しのイシマル役の花王おさむ。
狂言回しというのはなかなか難しい役どころですね。今回のイシマルもしっくりこない演技で、終始違和感がありました。特に滑舌が悪いというわけではないのですが、不自然さが付きまといました。

それで思い出したのが、こまつ座公演の『薮原検校』で浅野和之が演じていた「盲太夫」という狂言回し。全く同じでした。はじめは同じ役者かなと思ったほど。今回の公演で唯一残念だったところです。

舞台を終えて、最後に関西での千秋楽となるので主役の片岡愛之助の挨拶がありました。
これがほとんどこまつ座公演かと思うほど(笑)現在の世相に対する危機感と、高まる戦争への危惧と平和への強い願い、東北の復興への思いが込められていていいものでした。
途中の休憩をはさんで計2時間10分の上演時間でしたが、舞台に凝縮された演出家をはじめスタッフのメッセージと、それを見事に体現して演じきった役者たちに対して、満席の観客は惜しみないスタンディングで応えていました。
いい舞台でした。
観終わっての感想は、繰り返しになりますが本当にこまつ座の秀作劇を観たような充実感。よかったです。

もう全国公演は終わってしまいましたが、未見の方は再演の機会がありましたら是非ご覧ください。おすすめです。









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