小西保文という洋画家をご存知でしょうか?
私は全く知りませんでした。前回万葉文化館を訪れた時、この作家の画展の開催予告を見ていましたが、すぐ忘れていました。
最近私の頭はほぼ揮発性メモリ化しているので、よほどのことが無い限りみんな瞬時に消去されていきます。(笑)
そして今回、その画展を観に行くことになりましたが、前回の展示がかなりトホホな館蔵展だったので、聞いたことのない作家だし、村おこしのため奈良県吉野郡川上村が設けた芸術村で活動していたとのことで、まあローカルな絵画活動をしていた人の展覧会だろうなと軽く考えて出かけました。
この日は連休の最後の7月21日でした。いつもより早く着いたのに、駐車場には結構な車の数。展覧会の初日だったので、関係者の車かなとか言いながら駐車して、開館時間まで庭園の花を見に行くことにしました。
花の少ない時期ですが、それでもハギやナデシコやユリ、ヤブカンゾウ、キキョウなどが咲いていて、シモツケも咲き始めていました。
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時間になったので玄関先に戻ると、大勢の親子連れ。列を作って玄関前の受付に並んでいました。ガラスコップにサンドブラストで模様を描くイベントが行われるとのことで、その受付待ちの列でした。でもそれらの参加者が絵画展のほうに流れてくることはなかったですね。今回も初日のセレモニーにもかかわらず、展覧会の観客は少なかったです。
で、車椅子を押して奥の展覧会場に行き、入口の大きなポスターを見てびっくり。
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予想とは全く違って、これまで観たことのない作風の本格的な洋画です。ヨメさんもびっくり。まだまだ無知な私たちです。
そして会場内に入って、まず展示作品をざっと見渡しただけで、その迫力に圧倒されました。大和の農山村を描いたローカルな画家だろう程度(殴)に思っていたのが恥ずかしかったですね。
会場では、すでに親族(ご子息)による関係者を対象としたツアーガイドみたいなものが行われていました。会場のボランティアのスタッフに勧められて、私たちも途中参加。まもなくそれが終わったので、再び入口に戻って最初から観なおしました。
描かれている人物の背後の世界は、よく観ると英語だったり日本語だったりで国籍不明ですが、どれも郷愁に満ちた懐かしい風景です。
7UPならぬ8UPの看板があったり、昭和の香りプンプンなホーロー看板があったり。でも基本はヨーロッパとかアメリカンな光景。
作家が訪れたヨーロッパやアメリカの下町の風景の雰囲気が色濃く現れていました。
全体に、作品に登場する人物はみんな寡黙で、その表情には深い哀愁や諦観が漂っています。老若男女みんなひょろりと痩せていて、疲れ果てた感じです。裸婦も描かれていますが、肋骨が浮かび上がっていて痛々しさが目につきます。
とくに前半の作品はどこまでも暗く、胸を打ちます。
↓これは最初期の作品『少年立像』です
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初期の作品では『餐』がよかったです。
作品は人物画がほとんどで、初期には母親らしい女性もよく描かれていますが、そのどれも赤い服を着ているのは作者の原風景にある母親像なのでしょうか。
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描かれた人物の顔つきは、最初期以外はどの作品にも共通する細面の憂い顔です。その視線は決して正面を見ず、左右にそらされています。顔つきはアフリカなどの木彫りの工芸品の面を連想しました。
どの作品も哀愁や孤独さ、寂しさ、悲哀に満ちていますが、一方では今回のテーマにうたわれているように、作者の温かなまなざしが感じ取れて救いもありました。悲しみや辛さに耐えていても、決して絶望はしていないのがわかります。
そんな作品も、画業の後半になると画風に明るさが出てきます。絵も大きくなっていました。会場を観てまわりながら、ふと同様に辛い境涯にあった藤沢周平の作品の変化に通じるものを感じました。
作者は自らの作品上の人物について、かつて雑誌に寄稿して次のように書いています。
「描いて半年も経つと、自分の絵でも割と冷静に見ることができる。そこで自問自答が始まる。
画面上の人物は一体どういう人たちなのか、などと考える。(略)
別にわざわざ底辺の人たちを描いているわけでもないけれども、恨むこともなく、悲しむでもなく、力むこともなく、ひたむきに生きる姿みたいなものに惹かれるのかなあ、と思ったりする」
これは46才の時の文章だそうです。
作者自身、小学生時代に両親を亡くし、父方の親戚の世話になりながら旧制中学校を卒業し、神戸に出て地方貯金局に働きながら定時制高校を卒業したものの、間もなく結核を病み、5年間の療養所生活を余儀なくされるなど、幼くして「不条理・混沌の中に身を置く」生活を強いられ続けてきました。描かれた人たちは、作者のそんな生活の中での思いと、同時代を生きた市井の人々への共感が対象化されていると思います。
小西保文の絵にはよく車が描かれています。シトロエンDSみたいな車とか、フェアレディとかスバル360のような車がよく登場しています。ただ、作家自身は免許を持たなかったとのことです。
また画面の隅には、必ず猫や犬、コーラの缶などの小物が描きこまれていて作者のユーモラスな一面がうかがえます。
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小西保文は川上村から誘われて、最後の10年間ちかくは前記の故郷に創作の拠点を移して活動を続けました。前記の会場での親族の解説では、アトリエが格段に広くなったので、絵も大きくなったということでした。絵のサイズだけでなく、色調もハッキリわかるほど明るくなっています。
そして絶筆となった『窓辺の家族』がすばらしい作品。彼のモチーフのすべてが描きこまれていて、本当に集大成と言える作品でした。
画面下の方で膝に寄りかかっている小さい人物が主人公とのこと。
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2008年7月に肝臓がんの宣告を受けながらも、画集の編纂を続ける一方で絶筆となった作品を完成させ、9月22日に二紀展にそれを搬入、生前に「お別れ会」も済ませて10日後に亡くなったそうです。壮絶な創作への執念だったと思います。77歳の生涯でした。
ミュージアムショップで購入した画集です。作家のすべてがよくわかるいい画集です。
表紙です↓
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裏表紙です↓
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今回の万葉文化館の絵画展は、久々に(笑)見応えあるいい企画展でした。初日なのに観客の少ないのが気になりましたが、一つのテーマを追求し続けた異色の画家の素晴らしい画業がよくわかる展示になっていました。
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みなさんも明日香方面に行かれる機会があれば、ぜひご覧ください。おすすめです。
いつか記念館にも行ってみたいです。
さて、星組公演観劇が目前に迫ってきました。良い舞台だといいのですが。
私は全く知りませんでした。前回万葉文化館を訪れた時、この作家の画展の開催予告を見ていましたが、すぐ忘れていました。
最近私の頭はほぼ揮発性メモリ化しているので、よほどのことが無い限りみんな瞬時に消去されていきます。(笑)
そして今回、その画展を観に行くことになりましたが、前回の展示がかなりトホホな館蔵展だったので、聞いたことのない作家だし、村おこしのため奈良県吉野郡川上村が設けた芸術村で活動していたとのことで、まあローカルな絵画活動をしていた人の展覧会だろうなと軽く考えて出かけました。
この日は連休の最後の7月21日でした。いつもより早く着いたのに、駐車場には結構な車の数。展覧会の初日だったので、関係者の車かなとか言いながら駐車して、開館時間まで庭園の花を見に行くことにしました。
花の少ない時期ですが、それでもハギやナデシコやユリ、ヤブカンゾウ、キキョウなどが咲いていて、シモツケも咲き始めていました。
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時間になったので玄関先に戻ると、大勢の親子連れ。列を作って玄関前の受付に並んでいました。ガラスコップにサンドブラストで模様を描くイベントが行われるとのことで、その受付待ちの列でした。でもそれらの参加者が絵画展のほうに流れてくることはなかったですね。今回も初日のセレモニーにもかかわらず、展覧会の観客は少なかったです。
で、車椅子を押して奥の展覧会場に行き、入口の大きなポスターを見てびっくり。
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予想とは全く違って、これまで観たことのない作風の本格的な洋画です。ヨメさんもびっくり。まだまだ無知な私たちです。
そして会場内に入って、まず展示作品をざっと見渡しただけで、その迫力に圧倒されました。大和の農山村を描いたローカルな画家だろう程度(殴)に思っていたのが恥ずかしかったですね。
会場では、すでに親族(ご子息)による関係者を対象としたツアーガイドみたいなものが行われていました。会場のボランティアのスタッフに勧められて、私たちも途中参加。まもなくそれが終わったので、再び入口に戻って最初から観なおしました。
描かれている人物の背後の世界は、よく観ると英語だったり日本語だったりで国籍不明ですが、どれも郷愁に満ちた懐かしい風景です。
7UPならぬ8UPの看板があったり、昭和の香りプンプンなホーロー看板があったり。でも基本はヨーロッパとかアメリカンな光景。
作家が訪れたヨーロッパやアメリカの下町の風景の雰囲気が色濃く現れていました。
全体に、作品に登場する人物はみんな寡黙で、その表情には深い哀愁や諦観が漂っています。老若男女みんなひょろりと痩せていて、疲れ果てた感じです。裸婦も描かれていますが、肋骨が浮かび上がっていて痛々しさが目につきます。
とくに前半の作品はどこまでも暗く、胸を打ちます。
↓これは最初期の作品『少年立像』です
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初期の作品では『餐』がよかったです。
作品は人物画がほとんどで、初期には母親らしい女性もよく描かれていますが、そのどれも赤い服を着ているのは作者の原風景にある母親像なのでしょうか。
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描かれた人物の顔つきは、最初期以外はどの作品にも共通する細面の憂い顔です。その視線は決して正面を見ず、左右にそらされています。顔つきはアフリカなどの木彫りの工芸品の面を連想しました。
どの作品も哀愁や孤独さ、寂しさ、悲哀に満ちていますが、一方では今回のテーマにうたわれているように、作者の温かなまなざしが感じ取れて救いもありました。悲しみや辛さに耐えていても、決して絶望はしていないのがわかります。
そんな作品も、画業の後半になると画風に明るさが出てきます。絵も大きくなっていました。会場を観てまわりながら、ふと同様に辛い境涯にあった藤沢周平の作品の変化に通じるものを感じました。
作者は自らの作品上の人物について、かつて雑誌に寄稿して次のように書いています。
「描いて半年も経つと、自分の絵でも割と冷静に見ることができる。そこで自問自答が始まる。
画面上の人物は一体どういう人たちなのか、などと考える。(略)
別にわざわざ底辺の人たちを描いているわけでもないけれども、恨むこともなく、悲しむでもなく、力むこともなく、ひたむきに生きる姿みたいなものに惹かれるのかなあ、と思ったりする」
これは46才の時の文章だそうです。
作者自身、小学生時代に両親を亡くし、父方の親戚の世話になりながら旧制中学校を卒業し、神戸に出て地方貯金局に働きながら定時制高校を卒業したものの、間もなく結核を病み、5年間の療養所生活を余儀なくされるなど、幼くして「不条理・混沌の中に身を置く」生活を強いられ続けてきました。描かれた人たちは、作者のそんな生活の中での思いと、同時代を生きた市井の人々への共感が対象化されていると思います。
小西保文の絵にはよく車が描かれています。シトロエンDSみたいな車とか、フェアレディとかスバル360のような車がよく登場しています。ただ、作家自身は免許を持たなかったとのことです。
また画面の隅には、必ず猫や犬、コーラの缶などの小物が描きこまれていて作者のユーモラスな一面がうかがえます。
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小西保文は川上村から誘われて、最後の10年間ちかくは前記の故郷に創作の拠点を移して活動を続けました。前記の会場での親族の解説では、アトリエが格段に広くなったので、絵も大きくなったということでした。絵のサイズだけでなく、色調もハッキリわかるほど明るくなっています。
そして絶筆となった『窓辺の家族』がすばらしい作品。彼のモチーフのすべてが描きこまれていて、本当に集大成と言える作品でした。
画面下の方で膝に寄りかかっている小さい人物が主人公とのこと。
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2008年7月に肝臓がんの宣告を受けながらも、画集の編纂を続ける一方で絶筆となった作品を完成させ、9月22日に二紀展にそれを搬入、生前に「お別れ会」も済ませて10日後に亡くなったそうです。壮絶な創作への執念だったと思います。77歳の生涯でした。
ミュージアムショップで購入した画集です。作家のすべてがよくわかるいい画集です。
表紙です↓
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今回の万葉文化館の絵画展は、久々に(笑)見応えあるいい企画展でした。初日なのに観客の少ないのが気になりましたが、一つのテーマを追求し続けた異色の画家の素晴らしい画業がよくわかる展示になっていました。
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みなさんも明日香方面に行かれる機会があれば、ぜひご覧ください。おすすめです。
いつか記念館にも行ってみたいです。
さて、星組公演観劇が目前に迫ってきました。良い舞台だといいのですが。