最近、ひんぱんに兵庫芸文センターに通っていますが、11月8日(土)もここで二兎社公演『鴎外の怪談』観劇でした。
近頃よく渋滞する阪神高速ですが、幸いこの日は渋滞も大したことなく、1時間余りで到着。
いつもの障碍者スペースに駐車して、これまた最近定番の劇場近くのお手軽イタリアンで昼食を済ませて阪急中ホールへ。
今回も先行予約のおかげで最前列の良席が確保できました。最近ずっとこういう席すが、やはり臨場感がすごいです。クセになります。(笑)
舞台のセットは最近にないリアルな出来で、感心しました。後日劇場で買ったパンフレットを見ていたら、裏表紙に鴎外の旧宅の図面が掲載されていました。その図面と舞台セットが同じなので再度感心しました。12畳の洋間です。今回の芝居はすべてここで行われます。
ということで、いつもの薄味な感想です。例によって敬称略。画像はパンフレットから。
まず鴎外役の金田明夫。
初めて舞台で観ましたが、小柄な人ですね。でも味のある演技で、鴎外とはこういう人物だったろうなと思わせる説得力がありました。
写真で見る鴎外は取り澄ましていて冷たい感じですが、実際はこんな人物だったかもと思ってしまう説得力がありました。
でその鴎外ですが、動揺常なきインテリです。
後妻と姑の苛烈な対立に悩み、また親友の元陸軍軍医・賀古(もう俗物もいいところで、なぜ付き合っているのか疑問)との交遊の一方で、その対極というべき雑誌「スバル」の編集人で大逆事件の弁護人・平出修とも付き合っているという矛盾した存在です。さらに若き日の永井荷風とも文学を論じ合うという、複雑な人間関係の中で生活しています。
こういう複雑で、まあ二股膏薬というか、ジキルとハイドというか、鵺のような存在の鴎外を、金田明夫は時にコミカルに時にはシリアスに丁寧に演じていました。いい役者さんですね。
そういえば昔鴎外の墓を見たことがありますが、大正デモクラシーを象徴する素朴で飾らないいい墓石でした。
本当に鴎外の交遊関係は複雑です。
芝居を観ながら、森鴎外とはどういう人物だったのか、考えさせられました。
当時の軍医の最高位・軍医総監まで上り詰めながら、一方ではドイツ留学を契機に西欧の文学や、当時の最新の自由思想に触れて日本に紹介したり、それらをもとに次々と文学作品を発表。でも「ヰタ・セクスアリス」が風紀を乱すということで発禁処分を受けたりしています。
でも常識に囚われない進歩派だったかというと、留学中に知り合ったドイツ女性が、彼を追ってはるばる日本まできたのに冷たく追い返すという仕打ち。その一方で大逆事件で不当逮捕された人々の弁護にも手を貸すという二面性がナゾですね。まさに「鴎外の怪談」です。
その鴎外の後妻・森しげ役は水崎綾女。
最初セットの廊下での台詞がやや聞き取りにくい感じだったので心配しましたが、その後の芝居では文句なしに聞き取りやすいセリフで安心しました。まだ若くて舞台経験も多くはなさそうですが、底意地の悪い姑の露骨な嫁いびりと互角に渡り合って大したものです。(笑)
きれいな容貌ですが、パンフレットの写真では実物のほうがさらに美人なようです。(殴)
写真の説明にもあるように、文筆活動にも携わるなど才色兼備で気の強い女性だったとか。しかし鴎外もかなり面食いですね。
雑誌の編集者で文筆活動でも知られて、さらに弁護士の平出修役は内田朝陽。長身で、舞台のセットが窮屈そうです。
平出 修は鴎外から、当時強まっていた西欧思想の排撃と言論統制で入手難になっていたプレハーノフやクロポトキンの本を借りて読むなどして、新しい西欧思想をどん欲に取り入れようとしています。
このあたりの場面には、演出家の、現在の日本の偏狭な国粋主義の風潮や、「特定秘密保護法」をはじめとする安倍政権の危険な動向に対する鋭い批判が込められていますね。
内田朝陽の平出 修は、大逆事件の被告を何とかして救おうと弁護に四苦八苦する姿をよく演じていました。
実際の裁判での平出の弁論は裁判の不当性をいろんな角度から指弾していて、死刑の不当判決を受けた被告たちの唯一の救いになったとか。被告たちの獄中からの手紙にはどれも平出の弁論に対する感謝が綴られていたそうです。森鴎外がその弁論構成に一役買ったというのは史実でしょうか。
一方当時の文化の最先端を行っていたのが永井荷風。佐藤祐基が演じています。
彼も内田ほどできないですが長身です。なかなかのイケメン。演技も他の俳優同様安定していました。
私は知らなかったのですが、永井荷風はアメリカやフランスに留学するなど、時代の最先端のキザな生活を送っていて、後年の作品などから受ける私の作家の印象とは大きく異なっています。同じ海外留学経験のゆえか、荷風は鴎外の屋敷によく出入りしていたとか。
この芝居で一番インパクトのあった登場人物が、鴎外の母・森 峰役の大方斐紗子。
もう100年の時空を超えて森 峰が蘇ってきて、大方斐紗子に憑りついたとしか思えないほどのリアルさ。意地悪さが演技とは思えません。いやほめてます。
ただし、史実では鴎外にしげとの再婚を勧めたのが峰だったりするので、複雑です。
本当に大方斐紗子は完璧な演技と台詞です。骨の髄まで憎々しいです。
この人、歌唱力にも定評があり、シャンソン・コンサート『エディット・ピアフに捧ぐ』をライフワークとしているとか。機会があればぜひ聴いてみたいですね。
リアルといえば賀古鶴所役の若松武史もなりきっていました。
もう絶対いますね、こういう人物。俗っぽく計算づくで、上の顔色ばかりうかがっていて、常識から一歩も出ない人生観の持ち主。
でもそういう人物と、開明的な西洋思想に触れた経験のある鴎外とが親友関係にあるのがナゾです。これも怪談です。
若松武史はうまい役者さんですね。一つ一つの表情・セリフ・仕草から、嫌な奴のオーラが満ち満ちています。
感心しました。
今回の芝居で脚本の妙といえるのが、女中・スエ。演じているのが高柳絢子。
スエは架空の人物ですが、これがなかなかのツボでした。
はじめのうちは、よくシリアスな芝居で設定される笑いを取るための癒し系というか、息抜きの役かと思っていたのですが、これが実はプチ・ドンデン返しな役。
まだ公演日程がありますのでこれ以上は書かないことにしますが、キーワードは大石誠之助です。
脚本・演出の永井 愛の大石誠之助に対する想いがスエという形で表現されているのだと思いますが、この設定、大好きです。私も大石誠之助について少し調べたこともあるので、こういう形で紹介されたのがうれしかったですね。
で、高柳絢子はこの意外な展開の役をうまく演じていて、観劇中から好感度極大。まだ若いけど、いい持ち味のある役者さんです。
ということで、今回は二兎社も、脚本・演出の永井愛も初めてなら、登場人物もみんな初めて観た役者さんばかり。
そして題名からしてどんな話なのかまったく見当がつかない観劇でしたが、すべてが満点。よかったです。
こまつ座とはまた違った味わいがあり、ぜひまた二兎社や永井愛の作品を観てみたいと思いました。
この公演、12月11日の北海道たかすメロディーホールまで全国ツアーが行われています。ぜひご覧ください。おすすめです。
さて次は宙組「白夜の誓い ―グスタフIII世、誇り高き王の戦い―』『PHOENIX 宝塚!! ―蘇る愛―』の感想です。
芝居のほうは、これまたいい舞台でした。さすが原田 諒先生です。
遅い更新ですが、またアップしたらご覧になってください。
近頃よく渋滞する阪神高速ですが、幸いこの日は渋滞も大したことなく、1時間余りで到着。
いつもの障碍者スペースに駐車して、これまた最近定番の劇場近くのお手軽イタリアンで昼食を済ませて阪急中ホールへ。
今回も先行予約のおかげで最前列の良席が確保できました。最近ずっとこういう席すが、やはり臨場感がすごいです。クセになります。(笑)
舞台のセットは最近にないリアルな出来で、感心しました。後日劇場で買ったパンフレットを見ていたら、裏表紙に鴎外の旧宅の図面が掲載されていました。その図面と舞台セットが同じなので再度感心しました。12畳の洋間です。今回の芝居はすべてここで行われます。
ということで、いつもの薄味な感想です。例によって敬称略。画像はパンフレットから。
まず鴎外役の金田明夫。
初めて舞台で観ましたが、小柄な人ですね。でも味のある演技で、鴎外とはこういう人物だったろうなと思わせる説得力がありました。
写真で見る鴎外は取り澄ましていて冷たい感じですが、実際はこんな人物だったかもと思ってしまう説得力がありました。
でその鴎外ですが、動揺常なきインテリです。
後妻と姑の苛烈な対立に悩み、また親友の元陸軍軍医・賀古(もう俗物もいいところで、なぜ付き合っているのか疑問)との交遊の一方で、その対極というべき雑誌「スバル」の編集人で大逆事件の弁護人・平出修とも付き合っているという矛盾した存在です。さらに若き日の永井荷風とも文学を論じ合うという、複雑な人間関係の中で生活しています。
こういう複雑で、まあ二股膏薬というか、ジキルとハイドというか、鵺のような存在の鴎外を、金田明夫は時にコミカルに時にはシリアスに丁寧に演じていました。いい役者さんですね。
そういえば昔鴎外の墓を見たことがありますが、大正デモクラシーを象徴する素朴で飾らないいい墓石でした。
本当に鴎外の交遊関係は複雑です。
芝居を観ながら、森鴎外とはどういう人物だったのか、考えさせられました。
当時の軍医の最高位・軍医総監まで上り詰めながら、一方ではドイツ留学を契機に西欧の文学や、当時の最新の自由思想に触れて日本に紹介したり、それらをもとに次々と文学作品を発表。でも「ヰタ・セクスアリス」が風紀を乱すということで発禁処分を受けたりしています。
でも常識に囚われない進歩派だったかというと、留学中に知り合ったドイツ女性が、彼を追ってはるばる日本まできたのに冷たく追い返すという仕打ち。その一方で大逆事件で不当逮捕された人々の弁護にも手を貸すという二面性がナゾですね。まさに「鴎外の怪談」です。
その鴎外の後妻・森しげ役は水崎綾女。
最初セットの廊下での台詞がやや聞き取りにくい感じだったので心配しましたが、その後の芝居では文句なしに聞き取りやすいセリフで安心しました。まだ若くて舞台経験も多くはなさそうですが、底意地の悪い姑の露骨な嫁いびりと互角に渡り合って大したものです。(笑)
きれいな容貌ですが、パンフレットの写真では実物のほうがさらに美人なようです。(殴)
写真の説明にもあるように、文筆活動にも携わるなど才色兼備で気の強い女性だったとか。しかし鴎外もかなり面食いですね。
雑誌の編集者で文筆活動でも知られて、さらに弁護士の平出修役は内田朝陽。長身で、舞台のセットが窮屈そうです。
平出 修は鴎外から、当時強まっていた西欧思想の排撃と言論統制で入手難になっていたプレハーノフやクロポトキンの本を借りて読むなどして、新しい西欧思想をどん欲に取り入れようとしています。
このあたりの場面には、演出家の、現在の日本の偏狭な国粋主義の風潮や、「特定秘密保護法」をはじめとする安倍政権の危険な動向に対する鋭い批判が込められていますね。
内田朝陽の平出 修は、大逆事件の被告を何とかして救おうと弁護に四苦八苦する姿をよく演じていました。
実際の裁判での平出の弁論は裁判の不当性をいろんな角度から指弾していて、死刑の不当判決を受けた被告たちの唯一の救いになったとか。被告たちの獄中からの手紙にはどれも平出の弁論に対する感謝が綴られていたそうです。森鴎外がその弁論構成に一役買ったというのは史実でしょうか。
一方当時の文化の最先端を行っていたのが永井荷風。佐藤祐基が演じています。
彼も内田ほどできないですが長身です。なかなかのイケメン。演技も他の俳優同様安定していました。
私は知らなかったのですが、永井荷風はアメリカやフランスに留学するなど、時代の最先端のキザな生活を送っていて、後年の作品などから受ける私の作家の印象とは大きく異なっています。同じ海外留学経験のゆえか、荷風は鴎外の屋敷によく出入りしていたとか。
この芝居で一番インパクトのあった登場人物が、鴎外の母・森 峰役の大方斐紗子。
もう100年の時空を超えて森 峰が蘇ってきて、大方斐紗子に憑りついたとしか思えないほどのリアルさ。意地悪さが演技とは思えません。いやほめてます。
ただし、史実では鴎外にしげとの再婚を勧めたのが峰だったりするので、複雑です。
本当に大方斐紗子は完璧な演技と台詞です。骨の髄まで憎々しいです。
この人、歌唱力にも定評があり、シャンソン・コンサート『エディット・ピアフに捧ぐ』をライフワークとしているとか。機会があればぜひ聴いてみたいですね。
リアルといえば賀古鶴所役の若松武史もなりきっていました。
もう絶対いますね、こういう人物。俗っぽく計算づくで、上の顔色ばかりうかがっていて、常識から一歩も出ない人生観の持ち主。
でもそういう人物と、開明的な西洋思想に触れた経験のある鴎外とが親友関係にあるのがナゾです。これも怪談です。
若松武史はうまい役者さんですね。一つ一つの表情・セリフ・仕草から、嫌な奴のオーラが満ち満ちています。
感心しました。
今回の芝居で脚本の妙といえるのが、女中・スエ。演じているのが高柳絢子。
スエは架空の人物ですが、これがなかなかのツボでした。
はじめのうちは、よくシリアスな芝居で設定される笑いを取るための癒し系というか、息抜きの役かと思っていたのですが、これが実はプチ・ドンデン返しな役。
まだ公演日程がありますのでこれ以上は書かないことにしますが、キーワードは大石誠之助です。
脚本・演出の永井 愛の大石誠之助に対する想いがスエという形で表現されているのだと思いますが、この設定、大好きです。私も大石誠之助について少し調べたこともあるので、こういう形で紹介されたのがうれしかったですね。
で、高柳絢子はこの意外な展開の役をうまく演じていて、観劇中から好感度極大。まだ若いけど、いい持ち味のある役者さんです。
ということで、今回は二兎社も、脚本・演出の永井愛も初めてなら、登場人物もみんな初めて観た役者さんばかり。
そして題名からしてどんな話なのかまったく見当がつかない観劇でしたが、すべてが満点。よかったです。
こまつ座とはまた違った味わいがあり、ぜひまた二兎社や永井愛の作品を観てみたいと思いました。
この公演、12月11日の北海道たかすメロディーホールまで全国ツアーが行われています。ぜひご覧ください。おすすめです。
さて次は宙組「白夜の誓い ―グスタフIII世、誇り高き王の戦い―』『PHOENIX 宝塚!! ―蘇る愛―』の感想です。
芝居のほうは、これまたいい舞台でした。さすが原田 諒先生です。
遅い更新ですが、またアップしたらご覧になってください。