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梅田芸術劇場で『レディ・ベス』を観て感じたこと

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私たちが観たのは8月2日の12時の公演でした。
地下1階のレストラン街で昼食をとってからメインホールに向かいました。

この劇場には観客用エレベーターはありません。なので、事前に連絡していた劇場スタッフに案内されて、裏口の楽屋のエレベーターまで行って劇場に入りました。席は障害者用スペース。上手側通路端に車椅子を止め、私はその横の折り畳み椅子に座りました。
1階席はほぼ満席。でも2階席はけっこう空席が目立ちました。逆に3階席は結構埋まっていましたね。

以下、とりとめもない感想です。少々ネタバレありです。例によって敬称は略させてもらっています。

この作品は、『エリザベート』『モーツアルト!』を生んだゴールデントリオ(脚本・歌詞 ミヒャエル・クンツェ、音楽・編曲 シルヴェスター・リーヴァイ、演出が小池修一郎)という触れ込みなので、大いに期待していました。ちなみに『エリザベート』はとElisabeth、『レディ・ベス』のエリザベス1世はElizabethで一字違い。よほどこのトリオはエリザベスがお気に入りなようです。

まず全体の感想というか印象から。

上質な舞台です。まず役者が粒ぞろい。みんな歌の水準が高く、安心して聞いていられます。そして演技も説得力があります。舞台装置も衣装も豪華で重厚。生演奏がまた素晴らしかったし。
ただ、脚本としては盛り上がりに欠け、途中??な部分があって白けたところも。それと使用されている音楽が先の通り名手・シルヴェスター・リーヴァイということで期待していましたが、『エリザベート』のようにインパクトのある耳に残る曲がなかったのが残念です。
同じような例では、ジェラール・プレスギュルヴィックで期待していた『眠らない男・ナポレオン』の音楽もがっかりだったし、有名な作曲家といってもいつもヒットを飛ばすわけではないということですね。

『レディ・ベス』は今回が世界初演だそうで、それだけでも期待していました。ただ、私たちが観たのは残念ながらベスが花總まりではなく平野綾のほう。大体どんな公演でもWキャストというのは気に入らないですね。チケットが偏って、希望の配役の公演が観られないし。

もうこの点でかなりガッカリ感があったのですが、それでも先のとおり基本的に豪華な出演者なので、気を取り直しての観劇でした。(笑)

幕が上がって舞台には天文時計をモチーフとした傾斜したターンテーブルと、同じモチーフの宙に浮くリングが舞台にセットされています。モデルとなったのはヘンリー8世ゆかりのハンプトンコートにある天文時計とのこと。
ターンテーブルの傾斜が不安なストーリー展開を暗示しています。
このセットは非常にうまくできていて、映像も交えながら場面転換に効果を上げていました。
上で演技する役者が大変ですが、さすがにみんな危なげなく演じていました。
(以下の画像はすべて当日購入のプログラムより)


衣装も豪華。宝塚と違って派手ではないが、いぶし銀のような色合いで上品で重厚なデザイン。


まず、荘重な衣装に身を包んだロジャー・アスカム(ベスの家庭教師ですね)役の石丸幹二が登場。天文時計のセットの横で歌い始めただけで感動しました。

男の声もいいものですね。(笑) 力強い、よく響く美声が舞台から客席に流れだすと、それだけで名作の予感が。ひよっとして、あの名作フランス版ロミジュリの再来となるかと期待しながら観ていました。
ロジャー・アスカムについては、今回観劇した石丸幹二のほうが好みだったのでラッキーでした。
繰り返しますが、「レディ・ベス」の出演者全員が歌のレベルも高くて聴きごたえがありました。
これで『エリザベート』とか『ロミジュリ』や『ファントム』などのように、すぐ覚えられる曲があれば言うことなかったのですが。
なんといってもミュージカルですからね。

歌でいえば、今回もっとも印象に残ったのはアン・ブーリンの和音美桜でした。もう絶品です。これを聞けただけで本望。余裕たっぷりの、深くてどこまでも伸びる美しい歌声でした。

といっても、事前知識ゼロな私は和音美桜が出ているとはツユ知らず、幕間にヨメさんに「アレ誰?うまいねー」と聞いて呆れられました。
彼女は宝塚時代でも早くから歌と演技で目立つ存在でしたが、今回久しぶりに聞いて、その美声にさらに磨きがかかっていることに驚嘆しました。こんな逸材を十分活かせなかった歌劇団の人事のあり方には、当時も本当に疑問に思ったものでした。

私にとってはこの二人の歌が今回の舞台でのベストでした。(二人でベストかいと言わないように(笑))

もったいなかったのが涼風真世でした。出番の少ない、筋に絡まない端役で、実力からしたら彼女にこそメアリーをやらせたかったですね。もちろん歌は変わらぬ歌唱力で聞きごたえがありました。


レディベスの平野綾は、歌はよかったのですが、ビジュアル的に私にはとても王女には見えなかったのが残念でした。
ファンの方には申し訳ないのですが、どう見ても彼女は庶民顔で、王女のお世話係にしか見えなくて(殴)、最後まで感情移入できなかったです。ここはやはり花總で見たかったですね。


といっても、私は宝塚時代から花總まりはなじめなくて(横顔を見ていると夜な夜な箒にまたがって飛びまわっていそうで(殴))、実力は初演のエリザベートでよくわかっていましたが、どちらかというと早く辞めたらいいのに(殴)と思っていました。
でも今回はエリザベートつながりで(笑)、彼女のベスが観たかったですね。

花總まりが適役なのはこれを見ても一目瞭然ですからね↓




そっくりです。(笑) 
(↓これもプログラムから)

でも花總まり、いったい実年齢はいくつになるんでしたっけ。

話の方ですが、新約聖書をベスが読んでいることが問題とされて、これは「ドン・カルロス」の異端審問法廷の再現かと思ったがそうでもなく、王権争いのドロドロとした血なまぐさい話が続くかと思ったら途中からロミジュリそっくりの逢い引きシーンになったりとどうもトーンが一定していないので、観ていて違和感がありましたね。
とくに架空の人物・ロビンが違和感の最たるものでした。重厚なストーリー展開がロビン(山崎育三郎)の唐突な登場で急に軽くなって、しかも登場する必然性が全く理解できませんでした。
ロビンとベスが魅かれあうのもよくわからず。ただの世間知らずの王女が、大道芸人兼吟遊詩人な若い男に軽チャーショックを受けてひっかけられたみたいな話(笑)で、必然性が感じられなかったですね。

「ローマの休日」ふうなところもあったり。脚本家の想定ではロビンはシェイクスピアだったりするとかでよくわからない人物設定でした。ベスとロビンが塔の上下で話す場面では、音響の悪い客席端では「ロビン」が「ロミオ」に聞こえなかったりしてもう意味不明。(殴)

それと、最後で腹違いの姉のメアリー(吉沢梨絵)と和解するのもあっけなくて、ただ病で気弱になったメアリーが王位を譲ったみたいな感じでした。
吉沢梨絵のメアリーも歌・演技ともよかったですが、私としてはやはり本命の未来優希のド迫力な歌が聞きたかったですね。

それと異常にいい役だったのが平方元基のスペイン国王・フェリペ。宗教問題にも異様に寛大で(笑)、ベスを救ったのはひとえに彼の功績となっているのも「ほんまかいな」と思ったり。今回一番の儲け役でした。

ということで、事前の期待が過剰だったのと、本命キャストではなかったのであまり絶賛していない感想になりましたが、舞台としては、先に書いたように粒ぞろいの水準の高い歌唱力の役者と、豪華な衣装、よくできた舞台装置で決して損はしない作品になっていました(と思いたい)。


いろんな意味で、なかなか柳の下にいつもドジョウがいるわけではないと思った今回の観劇でした。




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