Quantcast
Channel: 思いつくままに書いています
Viewing all articles
Browse latest Browse all 705

宝塚宙組公演「翼ある人びと−ブラームスとクララ・シューマン−」を観て

$
0
0
大阪では観劇前日に近年にはない降雪があり、一日たった土曜日でも溶けず、車に乗り込むために雪かきが必要なほど。劇場への経路も途中通行止め等があって、いつもと違うコースで向かいました。でも逆に都心部はいつもより車が少なくて快調に走り、予定時間に劇場地下の駐車場へ。
障害者の指定場所に停車してエレベーターを待ったていたら、二人の女性がやってきました。一人はかなりの長身でファッショナブルです。まもなくエレベーター(かなり狭いです)が来たので乗り込み、ふとその女性たちを見たら何と仰天のハプニング!
ええ、驚きましたよ。誰あろう、みーちゃん、春風弥里さんでした!

車椅子のヨメさんもすぐわかって、「がんばってください、応援しています」とか「辞められたのですね」とか、不躾なのも顧みず話しかけていました。ても春風さんは全く気取らずに「ありがとうございます。そうなんです」と微笑みながら答えてくれました。

「これから観られるのですか」とヨメさんの立て続けの質問に私はハラハラでしたが、春風さんは「ええ、観たあとはトークショーにも出ます」と答えてくれました。やさしいですねぇ。普通春風さんのような立場になると、こういう対応をしない方も数多いですが、全く自然に応じてくれました。そうこうしている間にエレベーターのドアが開きました。
でもほんの短時間でも温かい春風さんの人柄に接することができ、本当にラッキーでした。
彼女は「キャパ」や(これはスカステで観たのですが)



アンドレア・シェニェ」でもいい歌と演技を見せてくれましたが、



私たちにとってはミュージックパレットでゲスト出演した際の見事な歌声が強く印象に残っています。あとになってそのことも言えばよかったねとか話しながら、つかの間の至福のときにひたりました。彼女の退団は本当に残念でした。

というハプニングのご報告はこのくらいで、いつもの塩分控えめ・超薄味の観劇感想です。以下敬称をすべて省略しています。

でいきなり結論ですが、とにかく脚本が良すぎる!
こんな脚本を書かれてしまったら、並み居るベテラン座付センセーたち顔色なしですね。まったく何をやっているんだといいたくなります。
脚本・演出の担当は、なんと2006年入団の新人・上田久美子。若いです。でもいい仕事しています。
↓スカイステージ「演出家プリズム」より

今年の宝塚新人脚本・演出家賞はこれで決まりですね。何の賞かって?もちろん「思いつくまま演劇大賞」(殴)。

大筋の話としては、2008年の映画「クララ・シューマン 愛の協奏曲」などとダブるところもなくはないですが、大体史実を踏まえたら同じような話になるのは当然で、そう考えてもはるかに今回の舞台の方がいいですね。

とにかく当時の音楽界とそれぞれの音楽家に対する演出家の深い造詣が投影された脚本になっていました。
19世紀のドイツロマン派の作曲家ロベルト・シューマンが、場末の酒場のピアノ弾きだったブラームスの才能を見込んで、自宅に住み込ませて才能を育てていく過程、そしてロベルトが精神疾患で入院し、困窮したシューマン家を、ブラームスが献身的に支えるという話です。
それをロベルトとブラームスの固い師弟の絆と、ブラームスとクララの許されない恋という二つの話を軸に、複雑に絡み合った当時の音楽界の人間関係を鮮やかに描き出しています。

生き生きとした人物描写、話の展開に全く無理がなく、極めて自然に話に引き込まれていきました。台詞がいいですね。宝塚らしくない(笑)自然な台詞のやり取りがリアル。殆どストレートプレイといっていい。

この芝居のモチーフは冒頭に流れる交響曲第3番 第3楽章でしょうね。この曲があってこの脚本になったのだろうと思わせるぐらい、よくマッチしていました。そしてその旋律を通奏低音として、ブラームスも、クララも、ロベルトも、リストも、ヴェラも、ルイーゼも、伯爵夫人も、ヘルマン博士も、ワーグナーも、そして書ききれないそれ以外の役みんな(笑)も、それぞれの人生を生きていました。それらすべてに、華やかでもどこか悲しい印象が終始付きまといます。うまいです。

あっという間の観劇タイムで、観終わったあとは文豪の名作小説を読み切ったような余韻のある充実感。本当に大したものです。この人の作品をもっと観たいと思いました。今後が楽しみです。

当日の場内放送ではリピーターチケットがあるとかのアナウンスがありましたが、日程的にリピートできなかったのが本当に残念でした。もっと前に観劇していればと悔やまれました。

〜配役です〜
ヨハネス・ブラームス‥‥‥‥‥‥‥‥朝夏まなと
ロベルト・シューマン‥‥‥‥‥‥‥‥緒月遠麻
クララ・シューマン‥‥‥‥‥‥‥‥‥伶美うらら
イーダ・フォン・ホーエンタール‥‥‥‥純矢ちとせ【音楽界の御意見番。通称「伯爵夫人」】
ヴェラ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥花音舞【ハンブルクの酒場の女将】
ヘルマン博士‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥風羽玲亜【ロベルトの主治医】
カタリーナ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 花里まな【晩年のブラームスの家政婦】
ヨーゼフ・ヨアヒム‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 澄輝さやと【名ヴァイオリニスト。シューマン家の友人】
ルイーゼ・ヤーファ‥‥‥‥‥‥‥‥‥すみれ乃麗【実在の女性に名を借りた架空の人物。クララのピアノの生徒】
ベートーヴェン?‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥凛城きら【ベートーヴェン?】
オットー・ヴェーゼンドンク‥‥‥‥‥‥ 松風輝【ジュネーブの銀行家。音楽の有力なパトロン】
フランツ・リスト‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥愛月ひかる【ロマン派のピアニスト、作曲家。「ピアノの魔術師」の異名をもつ】
レオノーラ・ゼンフ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥結乃かなり 【ライプツィヒの音楽出版社の社長夫人】
マティルデ・ヴェーゼンドンク‥‥‥‥‥夢涼りあん 【ジュネーブの銀行家夫人】
ユリウス・グリム‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 美月悠【作曲家志望の青年。シューマン家の友人】
リヒャルト・ワーグナ‥‥‥‥‥‥‥‥ 春瀬央季【ロマン派オペラの頂点に立つ作曲家。「楽劇王」と呼ばれる】
カロリーネ・フォン・ヴィトゲンシュタイン‥真みや涼子【ヴィトゲンシュタイン侯爵夫人。リストの愛人】
エミール・シューマン‥‥‥‥‥‥‥‥ 秋音光【シューマン家の長男】
フェリックス・シューマン‥‥‥‥‥‥‥ 花菱りず 【シューマン家の次男】
ユリー・シューマン‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 遥羽らら【シューマン家の長女】

で、それぞれの配役ごとに。

まずブラームスの朝夏まなと。もういうことなしの演技と歌でしたね。

最近観た「銀河宇宙伝説」とか「モンテクリスト」とか、あの恐怖の脚本/演出(笑)の「風と共に‥」で受けた印象とはまったく別人のような今回の演技、脱帽でした。
演技の隅々に細やかな心理描写が込められていて、抑制のきいた演技でしたが、光っていました。もうしょっぱなから感情移入しまくりです。







クララと本当はどうだったんだとかの下司の勘繰り(笑)が入る余地のないほど、芸術にひたむきな朝夏ブラームスです。
この人については、これまでの舞台印象は完全にリセット。ブラームスが夫妻の子供たちと遊ぶ姿など、本当に子供好きだろうなと思うほど。繊細で多感で芸術に賭ける純粋な魂を持った青年ぶりが見事でした。
説得力のある演技と歌、そして容貌、それらすべてが完璧にブラームスしていました。

対するクララ役の伶美 うらら。

この人もぴったりの役どころ。もう「肖像画にあるクララのイメージそのもの」(プログラム・上田久美子「翼ある人々」より)でした。クラシックな髪型に細面がよくマッチしていて、しかも豪華だが上品で趣味のいい色合いの衣装。しっとりとした中に情熱を秘めた演技。ハマリ役でした。キャパで見た演技よりもこちらのほうが数段よかったです。




ロベルトを支え、自らも芸術に対して期するところがありながら、一家の中心として生活のやりくりに追われる気丈な人妻を演じて見事でした。今のタカラヅカでクララ役はこの人以外には考えられないと思いました。台詞も立ち居振る舞いも言うことなし。
ただ惜しむらくは歌。ちょっと残念でした。さらに精進してほしいですね。

そしてロベルト・シューマンの緒月遠麻です。

人格者で、懐の深い、誠実そのものなロベルト。ぴったりでした。
ただ彼の内面はというと、創造力の衰えを自覚し始めていて、新たな才能の台頭に焦りながら、自身どう進むべきかを模索しつつ、音楽界のさまざまな抗争や葛藤に巻き込まれて苦悩しています。さらに妻に言えない持病にも苦しめられています。その姿には、こちらのほうも辛くなりますね。
彼女は最近こういう陰影のある役が多い感じですが、今回も複雑な人間像を味のある演技でこなしていてさすがでした。
Good Job!です。




儲け役といえるのがヨーゼフ・ヨアヒムの澄輝さやと。おいしい役ですね。いち早くブラームスの才能を見抜き、シューマン家に紹介する役です。晩年にも登場するなど、出番も多かったです。
名ヴァイオリニストとのことですが、なかなか演奏ぶりも板についています。(笑)



遊び人でもクララに師事している令嬢ルイーゼ(すみれ乃麗)にはぞっこんなのが面白いですね。

力まず自然な演技でブラームスやシューマン一家に気を配るところなど、良かったですね。

もう一人シューマン家にからむ役がルイーゼ・ヤーファ役のすみれ乃麗。実在の女性に名を借りた架空の人物だそうですが、芝居ではクララのピアノの生徒でブラームスに恋心を抱く令嬢です。この人もヨーゼフと一緒に最後にも登場します。ブラームスを慕う乙女心をよく演じていました。衣装も令嬢らしく豪華で典雅。




何度も言いますが、今回の舞台衣装は演出家の趣味でしょうが、色あいが素晴らしい。「風と共に‥」などとくらべたら月とスッポンの出来です。ただ、子供たちの服だけは最後まで着たきり雀でかわいそうですが。^^;

ブラームスとは対極に位置しているのが愛月ひかるのフランツ・リスト。
キザで奇を衒ったアクロバティックな演奏ぶり、自信満々で鼻持ちならないスノッブ。そんな嫌なヤツですが、話が進むにつれて結構影があったり、やさしいところも垣間見られたりで、存在感のある演技が光っていました。濃い役が似合っていました。
画像がなくてすみません。m(__)m

今回の舞台で一番のツボだったのが、リヒャルト・ワーグナーの春瀬央季。(余談ですが、今のタカラヅカの芸名、「央」とか「愛」とか「舞」とか「羽」などの漢字や、「ラ」行の平仮名が多いですねぇ。)
さておき、ワーグナーが登場したとき、長身と目立つ容貌にびっくり。おおっという感じで目立っていました。
口数が少なく(セリフが少ないからですが^^;)出番もあまりありませんが、舞台に出てきただけでそのインパクトはすごいです。黙って立っているだけでも雄弁。今後の舞台、要チェックですね。


笑いを誘っていたのは「ベートーヴェン?」の凛城きら。「偽作曲家」が話題になっている時だけに、なかなか微妙なタイミングですね。今回の狂言回しともいえる役ですが、なかなかの楽聖ぶり(笑)で、楽しませてくれました。
当時の音楽家たちが直面していたポスト・ベートーヴェンという課題を体現していていい演出だと思いました。

あと、さすがの歌と演技だったのが音楽界の御意見番で通称「伯爵夫人」のイーダ・フォン・ホーエンタール役の純矢ちとせ。
貫禄ありまくりの存在で、さもありなんというところです。歌も言うまでもない出来ですが、もっと歌ってほしかったですね。
そういえば今回の舞台は歌が少なかったですが、その分セリフで話が掘り下げられていたのでよしとしましょう。

これ↓はスカイステージの突撃インタビュー司会の画像です


その他の役もみんな頑張っていましたが、中でもヨメさんは晩年の家政婦カタリーナ役の花里まなを誉めていましたね。若いのによくやっていると感心しきり。この人も要チェックだそうです。

フィナーレのダンスシーンも落ち着いたいい雰囲気で、この舞台の締めくくりにふさわしいものでした。


本当に今回は、登場人物の造型が的確で見事です。それぞれの人となりがリアルによく伝わってきました。加えてセリフがよく練り上げられていて無駄がなく、幕が上がってすぐに話に引き込まれていきました。こういう舞台はなかなかありませんね。

とても新人演出家のデビュー作と思えないほどの完成度で、素晴らしい出来でした。私たちの予想をはるかに超えるいい舞台で、満足の一日となりました。絶対お勧めです!






Viewing all articles
Browse latest Browse all 705

Trending Articles