まず劇場までのメモです。
往路は道路も大して混まず、いつもどおり約一時間で劇場に到着。ホールに行くと男性客が多かったです。
劇場入り口の花は西岡馬さんへの一つだけでした。
今回の公演の脚本はこまつ座公演といっても、井上ひさしの脚本ではありません。ひさし没後の新しい作品として、「劇団桟敷童子」の東憲司が、井上ひさしの短編集『戯作者銘々伝』と、中編小説『京伝店の烟草入れ』をもとに書き下ろしたものです。しかし今回観劇して、いくら原作があって、それをもとに戯曲化したといっても、出来上がった作品が井上ひさしワールドになるかというと、これがなかなか難しいですね。
そう思ったのは一幕目。
舞台には江戸時代の戯作本「黄表紙」の代表作の大きな表紙絵が並んでいます。全員三角頭巾を付けた亡霊たちが出てきて、井上ひさしワールド全開かと期待したのですが、
続いて戯作本ごとに、各作者とその内容を紹介するあたりから猛烈に眠くなってきました。
井上ひさしの脚本と違ってとにかくテンポが遅くて平板。
それでも初めは興味津々で観ていましたが、話が細切れで、セリフが説明的なのがつらいところで、だんだん集中力が持たなくなって、普段から睡眠不足気味な私は、ついコックリとな。(殴)
そのたびに、何事もなかったように姿勢を正しますが、しばらくするとまた頭がカクッ。^^;この調子で最後まで行くのかと心配になりました。
横で観ていたヨメさんはどんな退屈な舞台でも絶対寝ない感心な人ですが、さすがに今回は限界を超えていたようで、幕間に彼女が書いていたアンケートをチラ見すると、感想欄に「脚本がダメ」とキツイお言葉。(笑) 安心しました。(笑)
ところが、これが二幕目になると、打って変わっていい出来になっていてびっくり。眠気は吹っ飛んで、集中できました。
話は、中編小説『京伝店の烟草入れ』をもとに、幕府の弾圧でたばこ屋に転じた京伝(北村有起哉)と、前人未踏の3尺の大玉を打ち上げることに必死になっている花火師幸吉(玉置玲央)の物語です。
京伝がたばこ屋になるいきさつ、同業の戯作者との交わり、花火師との出会いと三尺玉の打ち上げに至る経過、そして最後にご禁制を破って打ち上げに至るクライマックスまで、前半とは全く異なる緊張感のある展開でぐいぐい引き込まれていきました。
素人の思い付きですが、この脚本は、二幕の『京伝店の烟草入れ』をもとに、一幕の話の要素などを適当に織り込んでまとめたほうがいいと思いました。そのほうが主題がはっきりするし、それに絡めて各戯作者を取り上げるというほうが、芯がしっかりしていいのではと思いました。
というところで出演者別の感想です。いつものとおり敬称略。画像は当日購入したプログラム掲載の練習風景から。
まず出演者の集合写真です。みんな亡霊です。おまけに手鎖の刑を受けていたりします。
主演は山東京伝の北村有起哉。
この人の舞台を初めて見たのは「黙阿弥オペラ」です。彼の演じる素浪人・及川孝之進のすっとぼけぶりが面白くて、一度で名前を覚えました。
今回の役も、幕府の圧力で筆を折らざるを得なくなって、いろいろそれに対して思うところもありながらチャッカリたばこ屋でももうけ、でも同じくご禁制の三尺玉の打ち上げには加担するという、なかなか複雑で屈折した人物像をうまく表現していました。はっきりとポリシーを持って抵抗するのではなく、それに順応しているように見えながら、しかし心の奥には熱いものも持ち続けている京伝に、井上ひさしの温かいまなざしを感じました。
今回の観劇で改めて歌唱力が印象に残ったのが新妻聖子。
『それからのブンとフン』の小悪魔役でその歌と演技にびっくりし、『炎立つ』でもそれを再認識したつもりでしたが、今回の舞台で改めて心に沁みこんでくるような歌に感動しました。本当に大したものです。ヨメさんも幕間に「うまいねー」と感嘆していました。
『それからのブンとフン』の小悪魔↓
『炎立つ』↓
もちろん歌だけでなく、演技も素晴らしかった!
今回の役は亡霊・百合・お園・板行屋・お菊の五役!でしたが、これがすべてなりきり演技。亡霊と板行屋(瓦版屋ですね)以外は戯作者の妻で、夫の一人は狂死、一人は石を投げられて非業の死、もう一人は自害して、所払いにあう妻役ですが、それぞれくっきりと演じ分けていて見応えがありました。
緩急・強弱・高低にメリハリの利いたセリフと表情が自在に変化するのを、ただただ感心しながら見入っていました。つい、こういう人が宝塚にいたらと妄想してしまったり。(笑) とくに私的に、この人の笑顔にはすごいインパクトを感じました。
他の役者さんでは、まず玉置玲央もよかったです。
4役を演じていましたが、やはり後半の花火職人・幸吉が心に残りました。ひたむきに三尺玉の打ち上げにこだわっていますが、それだけではなく、どこか孤独な陰のある人物をよく体現していました。少ないセリフでもよく伝わってきました。
熱演ぶりに感心したのは山路和弘。
今回は6役をこなしていますが、とくによかったのは春町の段の喜三二。新妻聖子のお園との掛け合いで、夫・春町が自害した後、彼女を陰になり日向になり支え続けた喜三二を涙を流して熱演するなど、迫真の演技でびっくりしました。
これまで舞台ではお目にかかっていませんでしたが、いい役者さんですね。
それ以外のキャストでも、版元・蔦屋重三郎役の西岡馬はもちろん、阿南健治や相島一之と、芸達者ばかり。
とくに、出番は短かかったものの、阿南健治の徒士役はぴったりのイメージでよかったです。登場しただけで、いかにも!な出で立ちに感心しました。
相島一之の式亭三馬や蜀山人も地味ながら味のある人物像になっていました。
というわけで、前半はつらかった舞台ですが、後半はグッとよくなって最後はまことにこまつ座らしい幕切れ(笑)で大満足。
とくに政府・与党の憲法違反の戦争法案ゴリ押しと、そのための言論弾圧が露骨に前に出てきた今の世相を批判するにふさわしい内容で、満席の客席と出演者が一体となった感動のスタンディングとなりました。
なので結果としてはいい作品ということになりますね。(笑) でも再演時はぜひ前半を見直していただきたいです。
いつものことですが、薄い感想をここまで忍耐強くお読みいただき、どうもありがとうございました。
さて次は宝塚大劇場の観劇感想です。
もう公演も後半になっていますが、なんとか千秋楽までには間に合わせ‥られるかな?(殴)
往路は道路も大して混まず、いつもどおり約一時間で劇場に到着。ホールに行くと男性客が多かったです。
劇場入り口の花は西岡馬さんへの一つだけでした。
今回の公演の脚本はこまつ座公演といっても、井上ひさしの脚本ではありません。ひさし没後の新しい作品として、「劇団桟敷童子」の東憲司が、井上ひさしの短編集『戯作者銘々伝』と、中編小説『京伝店の烟草入れ』をもとに書き下ろしたものです。しかし今回観劇して、いくら原作があって、それをもとに戯曲化したといっても、出来上がった作品が井上ひさしワールドになるかというと、これがなかなか難しいですね。
そう思ったのは一幕目。
舞台には江戸時代の戯作本「黄表紙」の代表作の大きな表紙絵が並んでいます。全員三角頭巾を付けた亡霊たちが出てきて、井上ひさしワールド全開かと期待したのですが、
続いて戯作本ごとに、各作者とその内容を紹介するあたりから猛烈に眠くなってきました。
井上ひさしの脚本と違ってとにかくテンポが遅くて平板。
それでも初めは興味津々で観ていましたが、話が細切れで、セリフが説明的なのがつらいところで、だんだん集中力が持たなくなって、普段から睡眠不足気味な私は、ついコックリとな。(殴)
そのたびに、何事もなかったように姿勢を正しますが、しばらくするとまた頭がカクッ。^^;この調子で最後まで行くのかと心配になりました。
横で観ていたヨメさんはどんな退屈な舞台でも絶対寝ない感心な人ですが、さすがに今回は限界を超えていたようで、幕間に彼女が書いていたアンケートをチラ見すると、感想欄に「脚本がダメ」とキツイお言葉。(笑) 安心しました。(笑)
ところが、これが二幕目になると、打って変わっていい出来になっていてびっくり。眠気は吹っ飛んで、集中できました。
話は、中編小説『京伝店の烟草入れ』をもとに、幕府の弾圧でたばこ屋に転じた京伝(北村有起哉)と、前人未踏の3尺の大玉を打ち上げることに必死になっている花火師幸吉(玉置玲央)の物語です。
京伝がたばこ屋になるいきさつ、同業の戯作者との交わり、花火師との出会いと三尺玉の打ち上げに至る経過、そして最後にご禁制を破って打ち上げに至るクライマックスまで、前半とは全く異なる緊張感のある展開でぐいぐい引き込まれていきました。
素人の思い付きですが、この脚本は、二幕の『京伝店の烟草入れ』をもとに、一幕の話の要素などを適当に織り込んでまとめたほうがいいと思いました。そのほうが主題がはっきりするし、それに絡めて各戯作者を取り上げるというほうが、芯がしっかりしていいのではと思いました。
というところで出演者別の感想です。いつものとおり敬称略。画像は当日購入したプログラム掲載の練習風景から。
まず出演者の集合写真です。みんな亡霊です。おまけに手鎖の刑を受けていたりします。
主演は山東京伝の北村有起哉。
この人の舞台を初めて見たのは「黙阿弥オペラ」です。彼の演じる素浪人・及川孝之進のすっとぼけぶりが面白くて、一度で名前を覚えました。
今回の役も、幕府の圧力で筆を折らざるを得なくなって、いろいろそれに対して思うところもありながらチャッカリたばこ屋でももうけ、でも同じくご禁制の三尺玉の打ち上げには加担するという、なかなか複雑で屈折した人物像をうまく表現していました。はっきりとポリシーを持って抵抗するのではなく、それに順応しているように見えながら、しかし心の奥には熱いものも持ち続けている京伝に、井上ひさしの温かいまなざしを感じました。
今回の観劇で改めて歌唱力が印象に残ったのが新妻聖子。
『それからのブンとフン』の小悪魔役でその歌と演技にびっくりし、『炎立つ』でもそれを再認識したつもりでしたが、今回の舞台で改めて心に沁みこんでくるような歌に感動しました。本当に大したものです。ヨメさんも幕間に「うまいねー」と感嘆していました。
『それからのブンとフン』の小悪魔↓
『炎立つ』↓
もちろん歌だけでなく、演技も素晴らしかった!
今回の役は亡霊・百合・お園・板行屋・お菊の五役!でしたが、これがすべてなりきり演技。亡霊と板行屋(瓦版屋ですね)以外は戯作者の妻で、夫の一人は狂死、一人は石を投げられて非業の死、もう一人は自害して、所払いにあう妻役ですが、それぞれくっきりと演じ分けていて見応えがありました。
緩急・強弱・高低にメリハリの利いたセリフと表情が自在に変化するのを、ただただ感心しながら見入っていました。つい、こういう人が宝塚にいたらと妄想してしまったり。(笑) とくに私的に、この人の笑顔にはすごいインパクトを感じました。
他の役者さんでは、まず玉置玲央もよかったです。
4役を演じていましたが、やはり後半の花火職人・幸吉が心に残りました。ひたむきに三尺玉の打ち上げにこだわっていますが、それだけではなく、どこか孤独な陰のある人物をよく体現していました。少ないセリフでもよく伝わってきました。
熱演ぶりに感心したのは山路和弘。
今回は6役をこなしていますが、とくによかったのは春町の段の喜三二。新妻聖子のお園との掛け合いで、夫・春町が自害した後、彼女を陰になり日向になり支え続けた喜三二を涙を流して熱演するなど、迫真の演技でびっくりしました。
これまで舞台ではお目にかかっていませんでしたが、いい役者さんですね。
それ以外のキャストでも、版元・蔦屋重三郎役の西岡馬はもちろん、阿南健治や相島一之と、芸達者ばかり。
とくに、出番は短かかったものの、阿南健治の徒士役はぴったりのイメージでよかったです。登場しただけで、いかにも!な出で立ちに感心しました。
相島一之の式亭三馬や蜀山人も地味ながら味のある人物像になっていました。
というわけで、前半はつらかった舞台ですが、後半はグッとよくなって最後はまことにこまつ座らしい幕切れ(笑)で大満足。
とくに政府・与党の憲法違反の戦争法案ゴリ押しと、そのための言論弾圧が露骨に前に出てきた今の世相を批判するにふさわしい内容で、満席の客席と出演者が一体となった感動のスタンディングとなりました。
なので結果としてはいい作品ということになりますね。(笑) でも再演時はぜひ前半を見直していただきたいです。
いつものことですが、薄い感想をここまで忍耐強くお読みいただき、どうもありがとうございました。
さて次は宝塚大劇場の観劇感想です。
もう公演も後半になっていますが、なんとか千秋楽までには間に合わせ‥られるかな?(殴)